すこし、緊張していた。
今日田岡を呼んだのは、伝えたいことがあったから。
鎖のさびた匂いと、花火の火薬の匂いが、同時に鼻に吸い込まれた気がした。
それは、あのときの花火の記憶がよみがえったのか、だれかがここで新しく花火をしたなごりなのか、わからないけれど。
砂の上に置いた、サブバックをみつめる。
塾用のカバンじゃない。決心をして、学校のサブバックを持ってきた。
なにから話そう。
田岡に、どうやって伝えよう。
「夏休み、もうすぐだな」
だまっているわたしに、田岡が言った。
鼻の奥のこげた匂いが、よりいっそう強くなる。
「そうだね」
「まあ、夏休み入ったら、毎日顔合わせることになるな。塾の夏期講習、午前中ずっとあるだろ」
「うん」
「ヒマが減るから、いいんだけどな」
靴の先で、田岡が土の上に、円をえがく。
ちょっといびつな円をかいて、そのなかにまた、いくつか丸をかいて。テレビで見たことのある、キャラクターができあがる。