「ちな…つ…?」
初めて見た千夏の涙に、動揺を隠せない遥。この昨日も、一度も泣かなかったというのに…。

「嫌です…“さよなら”なんて言わないでください…」
ぎゅうっと抱きついてきた千夏。
突然のことに遥は戸惑うばかり。
「私、遥さんと一緒にいたくないなんて思ったことありません…。確かにはじめは少し怖くて早く家に帰りたかった…。でも、遥さんが本当は優しい人だってわかってからは…一緒にいるのが楽しくて…。遥さんは私をさらった人だけど、すごく優しくて…ずっと一緒にいたいって思うようになりました」
涙でうまく喋れないのか、しどろもどろで言葉を繋ぐ。

「でも…遥さんがいつか捕まっちゃうのはわかってるから、今日逮捕されなくても明日逮捕されるかもしれない。明日大丈夫でもその明日はわかんない…。
いつ遥さんと離れちゃうのかわかんないから…明日も一緒にいられるのかわかんないから……すごく不安で…」

そこまで聞いたところで、遥は千夏を抱き締めた。千夏がまだ何か言おうとしていたが、そんな事気にも留めず、強く抱き締める。
遥の温もりに包まれ、千夏の涙はさらに溢れた。

「千夏…!!」
彼女も自分と同じだった。
父がいなくなったあの日以来、自分なんていなければいいと思っていた。だが彼女は…千夏は必要としてくれた…。
俺を…

“浅井遥”を──。