「それで?」
「何が?」
大学から程近いカフェは、私と久美の気に入りの場所だった。
ここのベーグルサンドは美味しい。
「HARRY WINSTONの婚約指輪とプロポーズについて。」
「うん。ねぇ、やっぱりテラスより中の方が良かったんじゃない?日焼けヤバい。」
「聞いてる?」
「聞いてる。」
痛々しい程に降り注ぐ太陽が憎い。
ここまで暑いと溶けてしまうんじゃないか、と思うくらい。
「何?迷ってるの?」
「…別に。」
「悪くないと思うけどな。
経済的に安定した人気美容師、誠実、真面目、何より顔がいい。」
数を数えるように、久美は一つずつ挙げていった。
「まっ、私はさすがに十六も年が離れてるのは論外だけど。」
「私、まだ学生だし。」
「……何?結婚って、そんな急なの?」
「…今年中にはって。年明けから、また忙しくなるみたい。」
「はぁ〜、カリスマは大変ねぇ。」
久美の柑橘系の香水と、照りつく太陽の匂いが混ざり合う。
私は重い瞼を閉じた。
ベーグルサンドは、まだ半分も残っている。
食欲がないのは、
きっと暑さのせいだ。