マイクがなくてもよく通る声だった。

 一瞬の沈黙の後、
「誰?」
「芸能人・・?」
などという会話が生徒達で交わされ、ざわめきが戻った。

 女は拳銃は持っていなかった。上に羽織っている薄手のコートにでも隠したのだろう。薄茶色のコートは高級そうな代物で、白いパンツによく合っていた。

「みなさん、これから私が言う事をよく聞いてください。これからみなさんの持っている携帯電話を回収します。渡す時には電源を切ってください」

 途端に、そろえたかのような、
「えーっ!」
という声が上がった。

 女は、それを予期していたのだろう。
「黙れ!」
と怒鳴った。

 鳥岡の発するそれよりも大きな声がバスの中に響き、静寂が戻る。