簡単にシャツとネクタイを整えて、白いカーテンを開けると、
矢野先生は丁度コーヒーをいれている所だった。
「角砂糖は一つだよな?」
「よく覚えてるね。」
先生は、ふっと微笑む。
「そりゃ、何回も来てればね。覚えるよ。」
「その殆んどは仮病だし?」
ベッドから立ち上がって、あたしはモスグリーンのソファに腰をおろした。
コーヒーを持ってきた先生は、それをテーブルに置くと自分のデスクに戻っていく。
「ありがと。……でも、今日のはホントだよ。ホントに目眩がして…。」
「倒れちゃった?」
「うん。」
「今年は暑いからな。
貧血だろうから、あまり心配しなくても大丈夫。」
先生は何かの書類に目を通しながら、指先でペンを器用に回している。