「揺れるつり橋の上で緊張感を共有した男女は、それを誤って認識する事で恋愛に発展しやすくなる。
………つまり、所詮は錯覚なんだよ。」
「………あたしは、つり橋理論だと?」
「……あぁ、錯覚だ。」
梨子から目を逸らし、俺は呟いた。
「この可笑しな環境に踊らされているだけだ。
……梨子は、きっといずれ、後悔する。」
その瞬間だった。
俺の頬に、梨子は再び手を伸ばした。
口を開く間もなく、
俺と梨子の唇が重なった。
咄嗟の事に、目を見開いたまま固まる俺に、
梨子は唇を離して微笑みかける。
「……だったら、ずっと踊っていようよ。
錯覚だっていいじゃない?もしも、錯覚だったとしても、
また揺れる橋の上に行けばいい。
何度でも、何度でも。」
梨子は微笑む。
「……後悔なんて、しない。
…大好きよ、朔ちゃん。」
そう言って、梨子は俺にもう一度キスをする。
その微笑が、
天使でも、悪魔でも、もう構わなかった。
俺の中の理性は、音を立てて崩れ去る。
俺は梨子を抱きしめて、
そのキスに溺れた。