梨子は、何も言わない。





振り返ってみると、梨子は穏やかな寝息をたてて、眠っていた。







ホッとしたような、残念なような。




……でも、俺が余計な事を口にする前でよかった。



理性が、なくなる前でよかった。






俺は、梨子に布団をかける。



起こさないよう、細心の注意を払って。





そうして、部屋の明かりを消し、自分のベッドへ潜り込んだ。









穏やかな梨子の寝顔を見つめて、俺は自分自身に言い聞かせる。






全て錯覚だ、と。







俺たちは、自由なんかじゃない。





これは、束の間の自由。




逃げて、逃げて……。

例えば、世界の果てまで逃げたって、いずれは捕まるだろう。