再び、試着室に入って着替え始める。
はぁ。
小さな溜め息を零してから、目の前に広がる鏡に目を向ける。
俺は、はっとした。
……俺まで、浮かれ気分じゃねぇか!
鏡に映しだされる自分の表情は、少なくとも俺が想像する逃亡者のそれではなかった。
もっと緊迫感とかあってもいいんじゃねぇか?
なに、のほほんとしてんだよっ!俺!
ボケって移るのか?
これじゃ逃亡じゃなくて、まるでデート………じゃねぇよっ!!
「朔ちゃん、もうい〜かい〜?」
「うるせぇなっ!ちょっと待ってろよっ!」
「そこは、“まぁだだよ〜”です!」
………かくれんぼう風?
他人が見たら、コレ……マジでバカップルにしか見えねぇんじゃ………。
俺は急いで着替える。
それから慌てて外へ出ると、梨子は上から下までまじまじと俺を見た。