車に乗り込む瞬間、俺は呟いた。 「……梨子、急ぐぞ。」 「………はいっ!」 ありったけの笑顔で天使が笑う。 俺は、どういう訳か、 こんな状況なのに安らぎさえ感じていた。 奥田梨子が持つ、独特な雰囲気と大らかさが、俺に癒しを与えていたのは確かだった。 今にして思えば、 俺はもう、この時には心を動かされていたのかもしれない。 君が俺を“朔ちゃん”と呼んで、 俺が初めて君を“梨子”と呼んだ。 俺たちは、 この世界からはみ出した 自由で愚かな逃亡者。