15歳、
黒ぶちメガネのクソダッセぇ俺には出来なかった。
踏み出すことが。
クラスのマドンナだった水沢詩織に、クラスの男子ほぼ全員が好意を持っていた、と言っても間違いではないだろう。
調子がイイ奴なんかは、水沢詩織を“姫”とまで呼んでいた。
彼女は、そんな男子に対して苦笑して………俺は、そんな様子を、いつもただ遠くから見ていた。
だけど、男子にとってはマドンナでも、そうして何もせずともチヤホヤされる水沢をよく思っていない奴も確かにいた。
あれは……そう。
ちょうど、今と同じ10月。
忘れ物をして学校へ引き返した、
放課後の教室で俺はそれを見た。
― 「調子に乗ってんじゃねぇよっ!」
水沢詩織は、数人の女子に囲まれていた。
それは、もう、どこからどう見てもイジメで、
モップを顔に押しあてられたり、蹴られたり…………。
俺は、その一部始終を、ただ呆然と立ち尽くして見つめていた。
― 「……あれ?藤嶋じゃん。」
― 「何見てんの?何か文句でもあるわけ?」
傷だらけ、ボロボロの水沢が俺に向ける、助けを請うような視線。
俺は、でも、
ヒーローになんかなれなかった。