神経を焼き尽くすような痛みの中、見上げた梨子は無表情だった。




梨子は、俺を見下ろしていた。


けれど、それから一言も発しないまま、俺に背を向けて歩きだした。






俺の髪も、顔も、揺れる波に濡れる。


頬に張りつく白い砂。




立ち去っていく梨子の後ろ姿を、俺はそうして見つめていた。







呼吸さえ苦しい。



このまま広がっていく痛みにあがいて、もがいて、野垂れ死ぬのか。






梨子は、一度も振り返りはしなかった。










梨子がいなくなった砂浜で、俺は酷く荒い呼吸で空を見上げている。



水の冷たさも、砂のざらりとした感触も、まだ感じることができる。


それが、なぜだか不思議で……。







俺の瞳には、梨子と過ごした数日間の記憶が、断片的な映画のフィルムのように映しだされていた。




ごく最近の事なのに、遠い昔の事みたいだ。







死に対して恐怖はなく、俺はむしろ穏やかな気持ちでいた。









けれど、俺は見つけてしまった。




甦る愛しい記憶の中で、見つけてしまった。