「あの日…竹田を殺したのは偶然だった。……セクハラも、襲われそうになったのも事実。
……あたしは、咄嗟に灰皿を手にしていた。」
梨子はそう言って、目を伏せた。
「…『One』の駐車場はね、店のレジから見えるの。
九条修也を殴って物陰に隠し、車を奪って出ていくあなたの姿は丸見えだった。
……上手くいけば、九条修也を殺したのは、あなたって事に出来ると思った。
あたしは裏口から店を出て、気絶しているだけの九条をコンクリートの壁に叩きつけた。」
俺は俯いて、ただ梨子の話を聞いている。
緩やかに寄せる波、俺はその中に力なく座っているだけだ。
「……だけど、さすがに、あなたがコンビニ強盗に入ってきたのは想定外だった。
でも、運はあたしに向いてる、そう思った。
……そこから先は、あなたも知っているとおりよ。」
波の音、海の匂い、空の色。
肌で感じる全てのものが、俺を嘲笑っている気がした。