「寒くないか?」


「大丈夫。」






規則的な波の音。



夜が明けきらない空は薄紫色。

その中に滲むたくさんの色は不安定な顔をして、俺たちを見下ろしている。



それは、まるで俺の心を表しているようだ。




穏やかな波の音しか聞こえない静寂に包まれて。








「チェリー、チェリー、
あなたとあたしは二人で一つよ、
チェリー、チェリー。」




梨子は、あの不思議な歌の歌詞を独り言みたいに呟いた。






ただ海を見つめ、砂浜に立ち尽くす俺と梨子。








「……このまま、心中でもしちゃう?
もう、きっと、逃げ場なんてないんだし。」


「……俺は嫌だよ。」



梨子が、俺を見上げた。





「俺は、梨子と生きていきたいから。」




寂しそうに微笑む梨子、
海を見つめたまま俺は言葉を続ける。







「…梨子。俺、自首するよ。
逃亡劇は、もう終わりにしよう。」






梨子は俯いて、何も言わなかった。