「本当に殺すつもりなのか?」
低く響いた声は、蓮見組の若頭。
俺は思わず、引き戸に触れていた手を引っ込めた。
殺す…って……。
穏やかな話でない事は、明らかだった。
「……もう少しなの。」
それは、梨子の声。
………何が、もう少しなんだよ?
俺は息を潜めて、わずかに開いている引き戸の隙間から中を覗いた。
……さっきと、何も変わらない。
カウンター席に並んで座ったままのリンダママと、蓮見組の若頭。
そして、厨房の中に立つ梨子。
「…今になってね、アタシも不安なのよ。」
リンダママが口を開いた。
それを最後に、沈黙する三人。
静寂を破ったのは、蓮見組の若頭だった。
「……まぁ、よく考えろよ。」
そう呟くと、若頭は梨子に何かを渡した。
グシャグシャになった茶の紙袋。
梨子は受け取ると、その中身を見ている。