テキパキと厨房で働く梨子を横目に、俺は出来るならここから逃げ出してしまいたいと思っていた。
リンダママが厳しい目で俺を見ている。
笑顔の奥の有無を言わせない強い眼差し。
正直、萎縮してしまう程だ。
だから、俺は仕方なく、加齢臭と酒臭さが混ざり合った洋ナシ体型のオッサンに愛想を振りまく。
………人生で初めての、女装をして。
話は、遡ること2時間前。
タダで置くわけにはいかない、
リンダママのその言葉どおり俺たちは『スナック・リンダ』を手伝う事になった。
梨子は厨房担当、そして俺は…………。
「……アレって……まさか………。」
「そっ!女装して接客!ウチは、そういうお店だもの。」
リンダママが用意したピンクのドレスと黒く長い髪のヅラ、山のような化粧品の数々。
それらを目の前にして、俺は呆然としたのだった。