左側に果てしなく続く海。
駅から、しばらく歩いて梨子は呟いた。
「ここです。」
それほど広くはない駐車場、その奥に古臭い二階建の一軒家。
看板には『スナック・リンダ』と書いてある。
「リンダママは、信頼できる方ですよ。」
梨子はそう言うと、足取りも軽く入り口へと向かう。
手を引かれたまま、ついていく俺。
近づいて、改めて『スナック・リンダ』を見上げてみる。
昭和の匂いがぷんぷんしている気がした。
入り口にかかる、すみれ色の暖簾。
薄汚れて曇った二階の窓。
それから、真裏には穏やかな海が広がっている。
梨子は少しも躊躇う事なく、入り口の引き戸に手をかけた。