俺は、後ろから梨子を抱きしめた。
「朔ちゃん?」
風に乗って吹き込む、爽やかな海の香り。
「……んな事して、バレたらどうすんの?
す〜ぐ、捕まるぞ?」
梨子は、ふっと柔らかく微笑んだ。
「構いませんよ。
朔ちゃんと一緒なら、何も怖くないです!」
……思った事を、そのまま口にしているんだろうか。
ストレートな梨子の言動は、俺を脳髄まで溶かしてしまう。
俺たちは見つめ合い、静かなキスをした。
二人きりの電車、二人きりの世界。
邪魔するものなど、何もない。
梨子が、ほんの一瞬見せた寂しそうな笑顔を、
俺はもう忘れていた。
レトロなオレンジ色の電車は、終点・白岩を目指して加速する。
そして、
俺たちは、終わりに向かって加速を始めていた。