ボク達は音楽の話をしながら、水族館までの道を歩いた。



「フェスって行った事ないなー」とルウコが言ったから、「今度行く?」と聞いてみた。


ルウコはたちまちニコニコ笑顔になって、「楽しみ!」と言った。



そうこうしてるうちに、あっという間に水族館に着いてしまった。


天気は快晴だけど、うだるような暑さはなくてちょうどいい。
水族館は結構込み合っている。



「こんなに混んでたらイルカ見れるかなー」


ルウコは口を尖らせて文句を言っていた。



「多分見れるって」


ボクはそんなルウコをなだめながら水族館に入った。

「見れないと絶対ショック」とルウコが言うから、イルカショーを最初に見ることにした。


席もイルカのまん前。


(水しぶきが・・・!!)


ボクはそう思っていたけど、ルウコは横でキャーキャー言っている。


プールに3匹のイルカが立って並んでいて、飼育係の女性がチビっこに話し掛けるように言った。


『はーい、ではこれから皆さんにイルカ君達にエサをあげてもらいたいと思いまーす!』


そして飼育員はイルカに向かって話しをしている。


『そっかー。はーい、決まりました!!そこの女性の方、お願いできますか?』


飼育員が向けている手のひらはボク達の方に向いている。


「ソウちゃん、まさか・・・あたし?」


ルウコがボクを見た。また飼育員の声が聞こえる。


『はーい、あなたです!彼氏さんに話し掛けたお団子ヘアのあなたですよ』


ボクはまた吹き出しそうになった。

「あたし一生忘れない!!」


水族館の中のカフェでルウコは目をキラキラさせている。


「よかったねー」


ボクは微妙な感じで返事をした。


「ソウちゃん!イルカになんてなかなか触れないんだよ!ソウちゃんもイルカ君達に感謝しないと」





ルウコがエサをあげてる間、ボクはその姿を写メで何枚か撮っていた。


イルカはルウコにエサをもらうとクルクルとご挨拶をする。それを見て、ルウコは子供みたいに「可愛いー」とはしゃいでいた。


それを微笑ましく見ていたのはいいが・・・。


『彼氏さーん、彼女さんと一緒にイルカ君にエサあげてくださーい』


その言葉にギョっとする。


「ソウちゃん!可愛いよ」


ルウコも笑顔で手招きする。


周りには人がいっぱいいて、絶対エサなんてやりたくないのに、アウェーに1人で乗り込んで試合をする気分。


仕方ないからボクを立ち上がって、イルカにエサをやることにした。

「ソウちゃんがエサをあげてる姿、すっごい可愛かった」


ルウコは携帯を出して写メをボクに見せる。

そこには仏頂面でイルカに魚をあげているボクが写っていた。


「うぉ!!何撮ってんだよ!!」


ボクはビックリして大声を出した。

周りの客がボクを見る。

慌てて座り直してルウコの携帯から写メを削除しようと手を出した。


「やめてよー。これ、待ち受けにするんだから」


ルウコは携帯をさっさとしまってしまった。


ボクはガクリと肩を落とす。


「そんなにイヤ?」


ルウコは面白がって聞いてきた。


「イヤですね」


「迷ったんだよね、サッカーやってる写メと」


「はぁ!?」


「でもソウちゃん絶対怒るから。よかった、可愛い待ち受けできて」


ボクは携帯をルウコに向けた。


「なぁに?」


ルウコが自然と携帯に寄る。

その瞬間、カシャッと写メを撮った。


「ちょっと、何!?」


ボクは写メを確認すると爆笑した。


「あははは、ルウコ、寄り目になってる。すっげー変な顔」


ルウコは真っ赤になって「今すぐ消して!!」と怒った。


周りから見ればボク達はえに描いたようなバカップルに見えるんだろうな。

ルウコへ


初デートご苦労様でした!


・・・あれ?ご苦労様はおかしいか?


楽しかったな、また行こうな。


次は遊園地がいいです。ルウコがキライなジェットコースターとお化け屋敷は必ず行こうな(笑)


ルウコの変顔を待ち受けにしたかったけど、ルウコは怒るとすっげー怖いからやめておきます。


代わりにルウコがイルカにエサをやっている姿にしました。


後姿なんだけど、ボクは写真の才能がズバ抜けているのか!?と思うほどによいできです。


それと夏休みはフェス!!絶対行こうな!


幹太と約束してるけど、みんなで行ったら楽しいから明日香も誘うか?


幹太が言うには明日香も好きっぽいらしいぞ。


花火大会ほどではないけど、好きなアーティストのライブ見て騒いで遊んだ後に夜上がる花火はすっげーキレイです。


ルウコと見たいな。


キャンプするんだけど、それがまた楽しいんだ。だからみんなで行った方が盛り上がるんだよな。


でも、夜遅くにシークレットとかで演奏するアーティストはルウコと一緒に見たいな。手とか繋いでさ。


それ以外にも夏休みはいっぱい遊ぼうな!


海にも行きたいし。



でも、一つこれは勝手なボクの思い込みなんだけど心配事があります。


ルウコはあんまり身体が丈夫ではないっぽい気がします。


実は明日香もそんな事をチラっと言ってた事があって・・・


それはボクとルウコが付き合うずーっと前なんだけど。


まだルウコが「柏木」だった頃。


体育を結構休んでるって話を明日香がしていたような気がします。


今は身体は大丈夫なんですか?


ちゃんと隠さずに教えて下さい。


そうじゃなきゃ、ボクは外で遊んだりするのが好きなのでルウコに無理をさせてしまうかもしれません。


具合悪くなって夏休み全然遊べなかったとかは寂しいので事前に教えて。



段々、手紙ってものを書くのに慣れた気がします。


前より指が痛くないんだ。


では。



高柳 蒼 より

何でだろう・・・?


ボクはボールをトントンとリフティングしながら妙な胸騒ぎがした。


胸騒ぎなんて滅多にない。そして当らない。



「高柳ー!遊んでないでシュート練習しろー!!」


顧問の怒鳴り声が聞こえたから手を上げた。

ボクなりの「わかった」という合図。



フリーキックの練習中で、左利きのボクは当たり前だけど左にボールをセットした。


ちょっと離れて、また戻ってセットし直し。


「先輩がフリーキックちゃんとやるなんて珍しいっすね」


後輩が声を掛けてきてビックリする。


「え?オレ?」


「オレ・・・高柳先輩に話し掛けたんですけど」


後輩は困った顔をしている。


「あー、スペインだったよな優勝。オレ密かにマラドーナ効果でアルゼンチンかなーって思ってたけど」


「先輩、オレ、ワールドカップの話なんてしてませんよ」


「あ、そうだっけ?何だっけ?」


ボクが愛想笑いをすると、


「高柳ー!セットに何分かかってるんだよ!」とまた顧問の怒鳴り声。


またぼくは手を上げて、今度こそ集中して思い切りボールを蹴った。


ザっといい音がして、ボールはゴールの中へ吸い込まれて行った。

周りがワっと騒ぐのに対してボクは複雑だった。


ボクはそんなにフリーキックが得意ではない。

だけど、あっさり決まった。この妙な感覚は何だろう?


「高柳、マジメにやれば出来るじゃないか」


顧問が笑顔言うのにも、「まぁ・・・」と曖昧にしか返事が出来なかった。



もう一度、ボールをセットしてみる。

さっきとは全く違う角度。


(外れるか、よくてポストに当たって終わりだな)


そう思って蹴った。

でも、結果は見事なゴール。



「先輩スゴイっすねー」


さっきの後輩が声を掛けてきたけど、違う。何かが違うんだ。

何だろう・・・シャツのボタンを掛け違えたみたいな違和感がある。


「先輩?」


「え?あぁ、何か今日のオレって調子いいな」


笑って返事をした。



何かが違う・・・。

この胸にあるギザギザした違和感と不安は何だろう?




『今日は法事があってね、学校早退して明日もお休みなの』


今朝、ルウコがボクが書いた手紙を手にしながら言った言葉がよぎる。



法事じゃないか。だから何だっていうんだ。

早退して寂しいとかそんなんじゃない。

この不安はルウコからくるものなのか?

いつもルウコが部活を見学している石段に目をやる。

ちょうど、明日香が友達と喋りながら歩いているのが見えた。


「おい、ソウ!練習中だぞ」


幹太の声を背中にボクは明日香がいる場所までダッシュした。




息を切らせてボクが駆け寄るのを見て、明日香はビックリしていた。


「ソウちゃんどうしたの?」


息が上がってしばらく声が出てこない。ゲホゲホとむせる。


「ちょっと、大丈夫?」


明日香がボクの背中をさすった。

ボクはそれを制して明日香を見た。


「ルウコは・・・」


そこまでいいかけてまた咳き込んだ。


「え?ルウコがどうしたの?早退したでしょ」


一度深呼吸してから今度ははっきりと言った。


「ルウコの病気は何?循環器って心臓か?」


ボクの言葉に明日香は「え?」と聞き返してきた。


「知ってるんだろ?ルウコが病気だって事」


「ソウちゃん・・・」


明日香は口に手を当てて絶句した。