ボクのアルバムを見ながら「可愛い!」とか、「あははは」と爆笑したり、ルウコは結構楽しそうにしている。


「ソレ・・・重くないか?」


ボクの部屋に来てからルウコの膝の上に居座っているフレンチブルドッグの『ペンすけ』を指差した。


「平気。可愛いね、それに名前が面白い」


ルウコはペンすけの頭を優しく撫でた。



ボクの家の犬達は、ダックスの『モモ』と『紅(べに)』、チワワの『藍(あい)』に、この『ペンすけ』。


「ソウちゃん達もそうだけど、みんな色なのね。ペンすけは別だけど」


「母さんが美大に行ってて、何かわかんないけど何十色もある色鉛筆が好きだったから、みんな色がつく名前らしいよ。ペンすけは完全なネタ切れらいいけど」


「そうなの?ステキねー。ペンすけは面白いけど」


ボクもルウコもペンすけを見て笑った。




「ご飯よー」


階段の下から母親の声が聞こえた。


「あたしお手伝いしなきゃ」


ルウコは慌てたけど「いいんだよ、気にしないで」とボクが言うと、


「でも・・・お邪魔してるのに」


と不満そうな顔をした。


「まぁ、お客さんなんだから気にすんなって」


ルウコの背中を押して部屋を出た。
夕食にはなぜかいつもは遅いはずの親父までいて、興味津々でルウコに話しかけていた。


ルウコはそれなりに楽しそうに見えたけど・・・


(うちの家族は何なんだ!?)


ボクはため息の連続だった。



「ごちそう様でした」


ルウコが笑顔で箸を置くと、母親が「大丈夫だったかしら?」と言った。


「え?」


ルウコがキョトンとしている。


「ソウが、ルウコちゃんはカロリーが高い食べ物は苦手って言ってたから」


母親の言葉を聞いて、ルウコは微笑んだ。


「大丈夫です。お気遣いありがとうございます」


ボクは内心(余計な事言うなよ)と母親に思っていたけど、ルウコはちょっと間をあけてから喋り始めた。


「あたし、心臓病なんです」


食堂テーブルに座っていたボクの家族全員が固まった。

ボクもまさかルウコがそんな事言うとは思わなくてビックリした。



「え・・・?心臓?それって大丈夫・・・なの?」


姉貴がしどろもどろになりながら聞いた。

ルウコはニコリと笑ったまま、首を振った。


「治らないです。それに、食事とか色々気をつけないといけなくて・・・。ソウくんには本当に心配ばっかりかけてしまっているんです」


ボクを見て、今度はボクの家族に視線を戻した。


「あたしがこんな身体なので、ソウくんには沢山迷惑をかけてしまって、すいません」


そう言って頭を下げた。

「ルウコ、謝る必要ないから」


ボクがそう言ってもルウコは下げた頭を上げなかった。


「ごめんなさい・・・、大事な息子さんに負担をかけているんです、あたし。本当にごめんなさい・・・」


テーブルにポタポタと涙が落ちている。


しばらく誰も何もいわなかったけど・・・


「ルウコちゃん、謝る事は何もないのよ」


と母親が言った。

その言葉にルウコがようやく顔を上げた。


「ソウってね、いつもぼんやりしていて・・・、何考えてるか息子なのによくわからない子なの。何の目標もなさそうだし、つまらなそうな顔をいつもしている子なんだけどね。・・・でも、最近ちょっと変わったかな?って思ってね、それはルウコちゃんがいるからかな?って思ったのよ」


「あたし・・・ですか?」


「ソウのお付き合いしている子が、多分病気か何かじゃないのかな?って何となくは気づいていたの。前に本なんてロクに読まないのに、分厚い医学書買ってきて真剣に読んでいたりしたから」


「そう・・・ですか」


ルウコはまた下を向いてしまった。


「下を向く事なんて何もないのよ。ソウがちゃんとしっかり何かを考えたり悩んだり、そうやって真剣に思える事が大事なんだから」


母親はボクを見た。

ボクは何とも言えない気持ちで母親を見返した。


「ソウがルウコちゃんの支えになってあげているのかはわからないけど、あなたはあなたの身体の事を考えて大事にしなさい。でも、病気になんか負けないで強くなりなさい。あたしは普通なんだって胸を張りなさい。ソウ、あんたはルウコちゃんをしっかり支えるのよ」


「わかってるよ」


ボクがボソっと言うと、母親は「ほら!ルウコちゃんも笑って」と言った。


ルウコは涙を腕でゴシゴシ拭ってから笑顔になった。

「優しい家族だなぁ・・・」


ボクの部屋に布団を敷きながらルウコは呟いた。


『健全なお付き合いよ!』そう言って母親はボクの部屋に布団を持ってきた。

まぁ、一緒に寝て変な事すんなよって事だろうけど。


「そうかぁ?」


ボクは枕にカバーをつけながら言った。


「うん。あったかい、優しいよ。ソウちゃんが優しいのがわかる」


そして続けた。


「あたしの家族はね、あたしが病気になってから腫れ物を触るように扱うの。お父さんもお母さんも優しいんだけど・・・何て言えばいいのかな?全てにおいて思い出作り?いつ死んでもいいように。そういう風に扱うのよね。あたしは普通にしてほしいんだけど。妹くらいかな?まだよくわかってないから全然お構いなしなんだけど、その方がいいのよね」


「うん」


「ソウちゃんもあたしの身体に気を遣ってくれてるけど、家族とは全然違うくて、普通。本当に普通にあたしを見てくれるんだよね」


布団を敷き終えてベッドに座っているボクの隣に座る。


「ソウちゃん、ありがとう。あたしソウちゃんといれて本当に幸せだよ」


「お礼なんていらないけど・・・」


ボクが言うとルウコはボクに抱きついてきた。

ボクもルウコを抱きしめ返す。


「ソウちゃんとの幸せがずっと続くってあたし信じてるんだ」


「そうだな」


ボクとルウコがキスをしようとした時・・・



「ルウコちゃん、ケーキ食べない?・・・って邪魔しちゃった?」


部屋をバンと開けて姉貴が入ってきた。

ボクとルウコは固まってしまう。



「お前は・・・」


真っ赤になってルウコはボクから離れてしまった。

姉貴は気にしないでテーブルにケーキと飲み物を置いた。


「何よ」


「何でお前はそんなに空気読めねーんだよ!!夜中まで入ってくんな!!」


ボクが怒鳴ると「うるさいなー」と耳を塞いだ。


「やる時になったら出てくわよ、うるさいわよアンタ」


「お前には女らしさも情緒もねーのかよ!!」


そんなボクと姉貴のやり取りを聞いていたルウコは笑い出した。


「・・・おっかしー・・・、ソウちゃんも瑠璃さんも面白すぎ」


「いやね、ルウコちゃん。こんなヤツとあたしを一緒にしないでよ。それよりどれ食べれる?カロリーの低さなら多分シフォンケーキかな?」


笑っていたルウコは「シフォンケーキ!」と明るく答えた。


「あ、でもタルトも食べたいかも・・・。薬あるから大丈夫だし・・」


「じゃぁ、5コあるから2コ食べちゃえば?ソウ、あんたは1コでいいでしょ」




ルウコと姉貴が嬉しそうにケーキを食べているのをみて呆れてしまった。


「ソウちゃん、ケーキ食べないの?なくなっちゃうよ」


ルウコはガトーショコラをボクに渡してきた。


「この位の年齢は色気より食い気なのよ、やるか食うかって聞かれれば食うわよ」


(この女・・・絶対モテない!)


ボクはそう思いながらケーキを口に入れた。

やっと姉貴が部屋から出て行ってボクはため息をついた。



「やるなら静かにやれって・・・アホか、あの女」


ルウコはそれを聞いて笑っている。


「瑠璃さんって本当に面白いよね。ちょっと明日香っぽいかも」


「明日香?うーん・・・まぁ、ちょっと性格似てるかもな」


「うん。ソウちゃんの家族楽しくて大好き!また遊びに来てもいい?」


「そりゃいつでも来てくれていいけど」


「ソウちゃんパパが髪の毛切ってくれるって言ってたし、楽しみ」




ルウコが布団に入ろうとしているのを見てボクは言った。


「ルウコ、そこで寝るの?」


「え?」


「こっちで一緒に寝ればいいじゃん」


ボクはベッドの掛け布団を開けた。


「健全なお付き合いでしょ」


笑いながらルウコはベッドに入ってきた。


腕枕をして、くっついているとルウコが小声で言った。


「ソウちゃん、やる時は静かによ」


ボクは笑ってしまった。


「はいはい、静かにね。ルウコが静かにしてくれればいいんですけど」


「もう!そういう事言わないの!」


ボク達は今度こそキスをした。

ソウちゃんへ


夏休みも終わってしまって今日から学校ですね。


なので、いつも通り、下駄箱に手紙を入れておきます。



夏休みは本当に楽しかった!!


海もフェスもお泊りも・・・。


でも一番はソウちゃんの家へのお泊りかな?


ソウちゃんの家族があったかくて、本当に楽しかった。


ソウちゃんが優しいのはあんなステキな家族に囲まれて育ったからなんだね。


瑠璃さんともちゃっかりメアド交換しちゃったから、ソウちゃんが浮気しそうなら即連絡くれるって!!


だから浮気してもバレるから無駄な抵抗はしないでよ(笑)


・・・やっぱり、ソウちゃんママがあたしに言ってくれた言葉がすごく印象的。


『病気に負けないで強く生きなさい。あたしは普通だって胸を張りなさい』


すごく大事な言葉で、あたしもあたしの家族も忘れていた事。


そうよね、あたしは発病して絶望していつもどこかで思い出作りをしていた。


うちの家族もそう。


そうじゃなくて、今をそして未来をどう生きるかが大事なんだよね。


ソウちゃんとソウちゃんの家族が教えてくれた。


本当に感謝でいっぱいです。


あたしは何て幸せ者なんだろうと噛み締めています。


これからはソウちゃんとの思い出は未来へのあたし達のための思い出よね。


だから、いっぱい思い出作ろう!!


そして、いつか・・・


これはあたしの夢なんだけど。


あたしとソウちゃんの子供に思い出をいっぱい聞かせてあげたいの。


もちろん、子供ともたくさん思い出作るよ!!


・・・まだ早い?(笑)


でも、あたしはソウちゃんとこのままずーっと一緒にいて、ソウちゃんが旦那さんになってくれたらステキだなーって思ってます。


プロポーズしちゃった!!



ソウちゃん、これから先、何年、何十年もずーっと一緒にいようね。


初めて授業中に繋いだ手、絶対離さないでね!!約束よ。




ルウコより

「ねぇ」


始業式の長いHR中、欠伸を連発しているといつの間にか明日香がボクの前の席に座っていた。


ボクの前の席のヤツは友達と喋っている。

何て自由すぎるんだ!うちのクラスは!!


「あ?」


欠伸の途中でボクは返事をした。

ルウコは幹太とCDを見ながら楽しそうに喋っている。



「ルウコが女になった」


「は?ルウコは元々女だろ」


「ソウちゃんは優しかったって!もう、テクニシャンなんだから!!」


「はぁ!?」


明日香は足を組んでため息をついた。


「ソウちゃん、そんなに上手いのかー。あたしも1回相手してもらおうかしら」


「お前、絶対アホだろ」


やっぱりルウコが言った通り、明日香と姉貴の瑠璃は似てるかもしれない。


「まぁ、とにかく。ルウコがソウちゃんと付き合って幸せでよかった」


「何だよ、急に」


「ルウコって、ソウちゃんと付き合う前は何か・・・病気だって事で全てを諦めてる感じがしたの。ほら、今って受験の事考えなきゃいけないじゃない?」


「まぁ、そうだけど・・・」


始業式のHRが始まった途端に進路志望の紙が配られる。毎度の事だけど。