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二年前の雪の日だった。つきあって二ヶ月以上が経っていた雪の日。
私たちはいつものように手をつなぎどこにいこうかと笑い合いながら歩いていた。どこに行くにも寒いね、と言えば、彼もそうだな、と返す。
お金のない中学生だった。いつもはファーストフードに入ったり、家に行ったり、ただ公園で話をしていたり。そんな時間だけで満たされていた。
時々口づけをかわせば、その日は一日顔が赤いままだった。おそらくあの日が、正月明けでなければ、口にすることもなく思いを秘めて諦めていただろう。もしくは、クラスメイトが突然持ってきたオトナの雑誌を手にすることがなければよかったのかもしれない。
陳腐な雑誌に惑わされ、絡めた手に力を込めて、無言で見つめ合い、雰囲気に流された。
寒くて寒くて、耐えきれなくなってどちらからともなく、初めてラブホテルに入った。
こんな日に、抱きしめあってぬくもりを分け与えたら、ぬくもりを共有できたら、きっと幸せだろうと、信じて疑わなかった。雑誌に書いてあったように、愛が深まるのだと。恋人というものには必ず必要な行為なのだと。神聖で、穢れなき合いの行為だと、馬鹿なことを考えていたのだ。
彼も同じように思っていたかはわからない。だけど、少なくとも、最中はそんな思いなどどこにもなかったように思う。おそらく、私も。
互いに初めてのことで、何もかもが不器用だった。決まった順序に従うようにシャワーを浴びて、キスをかわし、たどたどしく舌を絡める。
口の中にある不自然な他人のものに嫌悪感を抱きながら、強く目を瞑り、これは必要な行為なのだ、これが普通なんだと何度も心の中で唱えた。
漫画や雑誌で見るような気持ちは欠片も抱かなかった。
ぎこちなく動く他人の手。どう反応していいのかわからない感覚。この行為になにを感じればいいのだろうかと思いながら歯を食いしばって、不快感をぬぐい去るのに必死だった。
人に見せたことない胸や肌。そこに私ではない誰かの手が添えられるだけで、ぬめりが体を伝うだけで、背筋がびりびりと震えた。声を耐えているわけでもないのに、口内に血が滲むほどに感でなにかを必死でこらえた。
ただ幼くて、ただ必死で、相手を思いやることなんてできなかった。
なにを目的にこんなことをしているのかさえ見失うほど、目の前の光景だけが私の世界の全てだった。
「入れるよ」
「……や、だ」
生々しい言葉に、一気に恐怖がわき上がって拒否してみたけれど、そんな言葉は聞こえないかのように、まだろくに濡れてもいない私の秘部に、彼のひとりで盛り上がった欲望が突き刺さる。
全身に内部からナイフを突き立てられたような痛みに、声に鳴らない叫びを上げた。
ただ必死で涼太は腰を振って、私はそんな涼太を見ることもなくただ必死で痛いと叫んだ。
下半身から脳にまで感じる痛み。涙でにじんだ視界。私の方を見ない涼太。パリパリの、清潔感を押し出したような白いシーツ。
その全てが気持ち悪かった。
広すぎるベッドも、凝った照明も、涼太の裸も自分の裸も、そんな姿でくっついていることも。滑稽な格好で痛みを感じるだけの行為をしていることも。
――痛い痛い痛い痛い!!
――やだやだやだ!!
その叫びを、涼太は一度だって受け入れることなく、自分勝手に動き、ひとりきりで果てた。
終わった後、放心状態の私の目に飛び込んできたのはシーツについた赤い血。
さっきまでシワ一つなくピンと張っていたのに気がつけばそれはぐちゃぐちゃで、その中央に残された血痕に、止まったはずの涙が再び溢れ出て、ただ、悲しかった。じわりとにじんだその色が、私さえも穢してしまったかのように見えた。
「無理」
そう告げて、泣きながら帰った。