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 雪は一週間も降り続いた。


 いつまで降り続けるのだろう、と窓を眺めながら友達と移動教室に向かって廊下を歩く。今年の雪は昨年以上にしつこい。昨日のテレビでは確か寒気が来たとか言っていた気がする。

「……いっ」

 かじかむ手に、びりっと電気が走ったような痛みに襲われ思わず手から教科書が落ちて床に散らばった。同時にペンケースの中身も。慌ててしゃがみ、それに手を伸ばしたとき、隣から大きな手がにゅっと現れて、同時に「何やってんだよ、真白」と、聞き覚えのある低い声が届く。

 視線を上げれば、涼太が私を見て笑った。こんなに間近で彼の顔を見るのは、二年ぶりだ……。

 そんな思いが広がって、思わず視線を逸らし「ちょっと手が滑っただけ」と言いながら教科書を手にする。

 今日が、雪でなければ、こんな気持ちにならなかったはずなのに。

 本を膝に乗せて、次にシャーペンを手にすると、涼太の手が私の手首をがっしりと掴む。体温の高い彼の手から、私の肌に熱が伝わる。

「これ、どした?」

 ぐいっと持ち上げられた私の手には、いくつかの絆創膏と、いくつかの小さな傷。人差し指から小指にまで、小さな切り傷が残っていた。どれも大きな傷じゃない。残るほどの傷じゃない。来年の今頃には、跡形もなくなくなっているだろうものばかりだ。

「……ちょっと、料理の勉強中」
「冬ばっかり?」

 びくっと小さく反応したのは、おそらく手を掴んでいる彼には伝わってしまっただろう。目を見て、なにを言っているのかと笑えばいいのはわかっているのに、顔を見るのが怖くて、自分がどんな表情をしているのかと思うと顔を上げることが出来なかった。

「鍋、食べたくなるでしょ?」
「ま、寒いしな」

 納得したのかわからないけれど、彼は「気をつけろよ」と言葉を付け足してから私の手を離し、一緒にペンや消しゴムを拾ってくれた。

 どくんどくんと響き渡る心臓の音が、どうか彼には聞こえていませんようにと、何度も心で願いながら、「ありがと」と告げて待っていてくれた友達のもとに駆け寄った。

 恐る恐る後ろに振り返り、涼太の様子を探ると、真っ直ぐに私を見つめている彼の視線とぶつかる。なにを思って私を見ているのか……そう思うと耐えきれなくなって背を逸らし、彼の視界から逃げるように早足で教室を目指した。

 もう一時間もすれば今日が終わる。明日には雪も止むかも知れない。そしたら……こんな変な感情に振り回され、背徳感を抱くこともなくなるはずだ。そう何度も言い聞かせ、傷だらけの左手を右手で隠しながら歩いた。