二年になって、同じクラスになった頃には、もう既に私は後戻り出来ない程自分の気持ちに自覚を抱き始めどうしようもない欲望を抑えつけるのに必死だった。

 だから、予想もしていなかった。正直言えばクラス分け一覧に涼太の名前を見つけて思わずしかめっ面になるほどは、一緒のクラスになることに嫌悪を感じたけれど。それに加えてもうひとつ予想もしていなかったことは、彼が、普通のクラスメイトとして私に接してきたことだ。

 彼にとって私との関係は、過去になったのだろう。幼かった時の恋心なんて恋愛にカウントもしていないのかもしれない。丁度二年になってすぐ、一年の女の子に告白されて付き合ったと教室で騒いでいたし。

 元々誰にでも優しい人。誰とでも仲よくなれる人。私だけと言葉を交わさないなんて、中学時代を知らない人からみたら逆に不自然だろう。

 彼にとってはその程度の存在なのかも知れない。

 元恋人であろうとも、今更気にすることもないような、ただのクラスメイトとして気持ちを切り替えることが出来るような、その程度の関係だったのかも知れない。

 けれど、私にはちがう。私には、出来ない。

 ……別に冷たくしたいと思っていないけれど、私は彼のように器用じゃない。消化しきれない想いを抱いているなんて、彼はきっと知らない。知ろうとも思っていないだろうし、そもそもそんな考えは浮かばないかもしれない。


 まだ暖かいカイロをぎゅっと握りしめると、じわりと熱が広がった。

 これが彼のぬくもりなのかと思うと、胸が苦しくて仕方ない。まだ二年。付き合って、そして別れてからまだ二年しか経っていない。まだ、冬を二回しか越してない。

 そんなにすぐに記憶を消し去れない。思いも痛みもなくならない。あの日、あの雪の日、別れを告げた寒い日を。あの痛みを。


 雪の上を歩くと、つもったばかりのそれがざくざくと音を鳴らす。

 誰も歩いた形跡のない雪の上は、脚を載せた瞬間ふわりと浮くような感覚がして、振り返るとさっきまで綺麗な白だった地面は私の痕跡をはっきりと残していた。

 十五分ほど無言で歩き、たどり着いたのは学校と家の中間地点にある小さな公園。いつもは子供たちで騒がしいけれど、雪の日はいつも静寂に包まれている。こたつに入ってテレビゲームでもしてるんだろう。

 ベンチに積もった雪を払い落として腰を落とす。お尻がひやりとするけれど、座っていたら次第に暖かくなるだろう。

 目の前に広がる私の世界は、ただ、真っ白だ。木も白く染まり、ブランコにも砂場にも白が覆い被さっている。寒いのに、早く暖まりたいのに、雪が積もるたびに私はいつもこの公園で足を止め、こうして腰を下ろし、白の広がる世界を眺めてしまう。

 雪は、音を出さずにそこに存在している。静かに降り注ぎ、ひたすら地面を覆う。雨よりも優しいように思えるのに、雨よりもずっとずっと冷酷な気がするのはなんでなんだろう。

 積もって、全てを隠してくれるはずなのに。積もって、私を凍らせて、私の形をあらわにしてしまう。

 雪は嫌いじゃない。寒いのも嫌いじゃない。

 けれど、真っ白で、不純物なんてなにもない綺麗なその存在は、私の穢れた感情に不釣り合いで、余計に自分が醜い存在のように思ってしまうし、寒さは窓のように、私の視界に白いフィルターをかける。だから、雪の日の“自分”が、嫌いだ。


 ――二年前から。
 そして、それを、思い出してしまうから。


 痛みと欲望に耐えきれなくなって、今日こそは、と思っていたにも関わらず、私は鞄の中からペンケースを取り出した。そして、いつもの行為を繰り返し、溢れる欲望を満たした。

 白に落ちた赤の光景に、私は、欲情する。