「真白、行く?」

 涼太の呼びかけに、見つめていたことがばれたのかと一瞬びくっと体を震わせてから、意味が分からず「え?」と投げ返す。

「話聞いてなかったの? カラオケの話よ。いいじゃん行こうよ。傷心の真白には丁度いいじゃない」

 質問に答えてくれたのは由香里で、ついでに余計な言葉まで加える。
 ……そんな事言わなくても良いのに。

「なに? 真白傷心なの? 俺とおそろじゃん」
「涼太も振られたの? 先輩だったっけ?」

 そう言えば先輩と付き合っているとか言っていたっけ。本人からではなくウワサで聞いただけだけれど、綺麗な先輩で、話していた男の子が悔しがっていた。

 そっか、振られたのか。

「そうそう、だから俺の為のカラオケ大会ってわけ」

 ケタケタと笑う二人に合わせるように曖昧に笑いながら「私は今日、無理。ごめんね」とさりげなく断った。

「えーなんで?」
「用事」

 残念がるふたりに、わざとらしく申し訳ない顔を作ってもう一度「ごめん」と呟く。

「真白、雪の日いつもなんか用事あるよねー寒いだけなんじゃないの?」

 これだから、仲がいい友達は困る。変に勘がいいのだから。

「なに言ってるの。たまたまでしょ?」

 さらりと交わして「次は参加するから」と言うと同時に、チャイムが鳴った。



「あ、真白バイバイー」

 ホームルームが終わって席を立つと、由香里が少し離れた場所から私に声をかけてきた。
「じゃあ明日ね。楽しんできて」と手を振ってひとり廊下に出る。

 カラオケはさぞかし盛り上がるだろう。楽しそうだな、と思う気持ちがないわけではないけれど、今日が晴れていても、私は行かなかっただろう。クラスメイトの集団の中に混ざる涼太に対して、その中の一人として、接する事ができそうにはないから。

 廊下に風が通り抜けて、ぶるっと鳥肌が立ち、マフラーを口が隠れるほどにあげて早足で歩く。疼く体を必死に耐えて、寒さでごまかしながら。

 クラブに行く人、友達を待つ子、私と同じようにさっさと帰ろうとする人たちが廊下にあふれていた。その中に涼太が女の子に呼びかけられるのが視界に入っていたけれど、気づかないフリをして靴箱を目指す。

 昇降口のドアをくぐり抜けた瞬間、ぶわっと視界が白く染まった。外は未だに雪が降り続いていて、傷だらけの左手が疼く。