真っ白い雪の日は、なにかをひたすら欲する自分がいる。

 穢れのない白に対して憧れを抱いているのかもしれない。もしかしたら嫌悪感を抱いているのかもしれない。

 なんにせよ、雪の日の私はどこか落ち着かなくて、誰かにすがりつきたくなる。同時に誰も満たしてくれないどころか、それを望んでもない自分に気づかされる。

 だから、私はいつも公園で白い世界が暗闇に包まれるまで、過ごした。

  *

 大体の予想はついていた。

 彼の部室でお昼を一緒に過ごしながら、徐々に減っていく会話と義務感。おそらく、そんな思いを抱いているのは私だけではないだろうと、私はもう、気づいていた。

 いつもの汚い部室でご飯を食べ終わって五分ほど沈黙を過ごした後、隣にいた彼が口を開く。

「あのさ」

 うん、と小さく返事をしながら、ふたりで過ごした数ヶ月間を思い出した。告白されたときは名前くらいしか知らなかったけれど、付き合ってみれば案外気が合う人だったな、とか。付き合った当時は毎週映画を見に行っていたのに、最近はもっぱらホテルだったな、とか。手を繋いだときに彼の汗ばんだ手はちょっと気持ち悪かったな、とか。

「別れようか」

 ありきたりな別れ話の切り出し方は、彼のありきたりなセックスを思い出した。

 始めこそ粘着質だろうかと思える程、前戯に時間をかけていたが、後半はワンパターン化した簡易なセックス。私の声が減っていくのに比例して、彼の喘ぎ声は大きくなっていた。つまり自分が気持ちいいだけの作業だったのだろう。

 しかも最近の平日はこの、彼の部室でお昼の後に汗を流した。部長という立場を利用して、自分だけが鍵を持っているから邪魔されないよ、と嫌らしい笑顔で私をお昼に誘ってきたのを覚えている。そのときから、デリカシーのない猿みたいな人だな、とは思っていたけれど……別れ話もここでするとはさすがに思っていなかった。

「わかった」

 傍にあったお弁当箱を包みながら、素っ気なくそう返事をして彼の顔を見ることをしないまま腰を上げて背を向ける。

 予想はついていた。そして、私もそれを望んでいた。場所はともかく、遅かれ早かれ別れるだろうことはわかっていた。だから傷ついてはいないし、怒ってるなんてこともない。

 ただ――やっぱり、という虚しさをを抱いているだけ。どうして私はこうなんだろう……。自分がイヤになる。

 部室を出て、教室のある別館に向かう途中の渡り廊下に出ると、一気に視界が白く染まった。

 ……雪、か。

 今年になってもう、何度目になるのかわからない白い景色に足を止めて、はらはらと舞う白が地に落ちていくのを眺めた。

 どうりで今日は朝から寒かったはずだ。地面はほぼ白くなっていて、先生達の車にも積もっているのが見える。今日はまだまだ降るだろう。もっともっと、世界を白くするだろう。傷だらけの自分の左手を見つめて、こみ上げる欲望を抑えるようにぎゅっと拳を作って踵を返し、暖房の効いている暖かな教室に向かった。