彼との関係に違和感を抱きだしたのはいつからなのか、私と彼のどちらが先だったのか分からない。私がキスを拒んだのが先だったのか、彼が義務のようにベッドでキスするのが先だったのか。

 そばにいることに幸せを感じているのに、窮屈さを感じ始めた。楽しいはずなのにどこか疲れていく。心地よかった時間と空間が、いつの間にか音もなく崩れていた。

 徐々に増えた和希の飲み会や残業は、私と同じように感じていたからだと気づいていたのに、私は淋しいとも悲しいとも思わなかった。それどころか、彼がご飯を外で食べてきてくれれば私はご飯を食べなくていいんだと喜んでいた。

 分かっているのに離れられなかったのは、和希のことが大事で、間違いなく幸せだったから。いなくなってほしくなかったから。そして、和希も同じ気持ちだったから。


 お米みたいに食べ過ぎたから、そばにいすぎたから、好きじゃなくなったのかもしれない。きっと私が悪いんだ。


 だから、もう一度、好きになりたかった。


 離れられないならば、離れたくないのならば。そばにいてくれるだけで笑顔でいられた日のように、もう一度彼を好きになれれば、私も、和希も幸せになれると思っていた。願っていた。だからチョコレートを買い続けて、和希を染めたかった。そうすればきっと好きになれると信じていた。

 だけど、そんな問題じゃなかった。


「美治のこと、好きだったよ」
「私も、大好きだった」
「……知ってるから、大丈夫」


 私の大好きな、彼の嫌いなチョコレート。
 私の大嫌いな、彼の好きなご飯。

「嫌いなものを無理して好きになるよりも、好きなものを、もっと大事にすればいい。そのほうが、お前らしいよ」

 チョコレートに、私の涙が一滴ぽたりと落ちて、溶けた。

「お前にとってチョコレートみたいな、どれだけ食べても好きでいれる相手が、きっといるから、――大丈夫だよ」

 和希にとって、その相手じゃなかった。
 そして、和希にとっても私は、ご飯じゃなかった。


「俺にチョコレートかけてでも、好きになろうとしてくれて、ありがとう」


 ご飯にチョコレートも美味しいけど、食べなくていいならチョコレートをかけたりなんかしない。誤摩化しているだけだったから。お米が好きになったわけじゃないから。

 だけど、嫌いじゃない。だから、時々は口にするだろう。そんな風に、和希のことも思い出すだろう。そして、悲しくて涙を出す日もあるだろう。そんなときはきっと、チョコレートを食べれば――大丈夫。

 和希もたまにチョコレートを食べて、そのあと胸焼けしてお米でも食べる。そんな風に、私のことを思い出してくれたらいいなと、思う。



 
 その日の夜、ふたりでチョコレートまみれになりながらお風呂の掃除をし、その三日後、“別れよう”という言葉を口にする事なく、私たちは笑顔でさよならを告げた。