「ただいま……」
いつもよりも早く帰宅した家の中には、隆平の明るい声が響いている。
時間は9時。いつもよりも夜更かししているのだろう、きゃっきゃとはしゃぐ声と、廊下を走る音。
「あ、お帰り! 今日は早かったね!」
隆平を抱きかかえて玄関にやってきた達也に「うん、たまには」と返して、隆平を抱きしめた。
なにを言っているかわからなかったけれど、ニコニコと笑って、私の髪の毛を軽く引っ張る。
いつのまにか、成長している。
そういえばこの前達也が、一人でも座れるようになったんだと、そう言っていたっけ。
温かいミルクのニオイが、心を穏やかにさせてくれる。
「はい」
リビングのテーブルに腰掛けると、いつものように達也の料理が並べられた。
今日の晩ご飯は私が大好きなビーフシチュー。そして湯気の立つフランスパンと生ハムの添えられたサラダ。
「最近疲れてたから」
「ありがと」
ビーフシチューをつくのは、5時間くらいかかるんだとか言っていたのに。
朝から隆平の世話をしながら作ってくれたんだろう。
ブロッコリーも添えられているし、フォークで突き刺したにんじんも、柔らかく、ほんのりバターの風味がした。
「――で、これも」
「……え?」
ビーフシチューに腹を膨らませると、続いてチーズケーキ。
「なにこれ」
「何となく。甘い物っていいだろ?」
ケーキなんて久々すぎて、どうしていいのかわからない。それだけじゃなくて、これは明らかに手作り。
「好きだったなーって思い出して」
「あーあー」
達也の言葉に同意するように、隆平が声を出す。
まだなにを言っているかはわからないけれど、達也は「なー?」と呼びかけた。
うす黄色のチーズケーキは、私が作るよりも遙かにおいしそうに膨らんでいて、口の中に含むと、ぶわっとチーズの味が広がった。
達也はまだまだ就職活動中なことをしっている。本当は誰よりも働かないといけないと思っていることを知っている。
隆平は達也といる時間が長くても、いつも私のそばにいてくれる。そして笑いかけてくれる。
疲れたときになにも言わずにフォローしてくれる。
どんなに遅く帰っても、達也は起きて待っていてくれる。
おいしいご飯に、優しい笑顔。
――ほんとはこんなにも重たくて大切な物を背負うつもりはなかった。
だけど。
――それがこんなにも幸せなことに気づかせてくれた。
「頑張らなくっちゃ、ね」
ママは大黒柱だ。
二人に支えられてはいるけれど。ね。
End