契約社員だった達也は、私が復帰するタイミングで会社を辞めた。
正確には契約打ち切り。どこも不景気で、一応就職活動はしているもののどこにもひっかからないまま半年。
今や立派な専業主夫だ。
いつの間にか料理の腕はめきめきと上がっていて、何を作らせても美味しいし、掃除嫌いだったはずの彼によって、部屋は常にキレイに磨かれている。
助かっている。
――……の、だけれど。
「まさか私が一家の大黒柱になるなんて思ってなかった……」
はーっとため息を零しながら、達也の作ってくれたお弁当を休憩室で開く。
白ご飯に、袋のままのふりかけに、卵焼きにウインナー、そして昨日の晩ご飯の残りに一手間加えた豚肉の炒め物。
昨日のままじゃない、ってところがにくい。そして美味しい。
「えーでも今多いらしいですよ−? 専業主夫」
「まあ、そうかもしれないけどさー」
結婚して2年ほど。徐々に不安みたいなものが心の中で膨れあがってくる。
それがなんなのか、上手く言葉に出来ないけれど……ただ、未来を考えると、一気に心が重くなってしまう。
「先輩はこうして働いている方が似合いますし」
それは褒め言葉と受け止めていいのだろうか……。
目の前の後輩は、かわいらしい笑顔で、お母さんが作ってくれたというお弁当を上品に口に運んでいく。
24才かーまだまだ若いな。
実家暮らしで、二つ年上の彼氏と付き合って半年、だったかな。ウワサによるとどこかの出来る営業マンだとか。
多分そのうち結婚して、彼女はきっと会社を辞めて、家に入り、そして子供を産んで育てていくのだろう。
もちろん共働きという可能性もあるにはあるけれど。そのどちらかには違いない。
「まさか、こうなるとは、ね」
「え? なんですか?」
「こっちの話」
呟きに反応した後輩に軽く首を振って、ご飯を口に運んだ。