「涙が……ずっと止まらないの」


何で……?そういう病気なの?

さすがに目の前で女の子が泣き出したら俺も焦るしどうしたらいいのか分からない。原因が分からないだけに余計だ。


「ケチャが亡くなってから……止まらないんだよ」


誰だケチャ。どこの人だ。
ちゃんと話せ。


「去年の今頃に……飼っていた犬が……散歩中に逃げ出したの。

私がちゃんと……ヒモを繋いでなかったから。急に走り出してしまって……探したんだけど見つからなかったの」


ケチャ、それが吉山の今話す犬の名前だと言う事は何となく悟った。


「見つからなくて……見つからなくて……。見つかったときには並木道で……横たわっていたの」


それがもう手遅れだったっていうことは、分かる。

吉山はもう涙を拭うこともなく流し続けた。ティッシュでも差し出せばいいのにと自分に心の中で言っても体が動かない。

吉山の傍を……離れちゃいけない気がして。


「寒かったよね。きっとすごく寒かったよね。

ご飯もなくて食べ物もなくて、真似してみたって私には出来なくて……余計に寒かったんだろうなって」


だから、お金も持たずにこんな薄着であんな場所に寝そべっていたのか。

飼い犬と同じ状況になって――それを体で感じようとしていたのか。


「もう寒い思いをさせたくないけど……だけどやっぱり冬は来るし……土の中なら暖かいかなあ」


俺はぽりぽりと頭を掻いて深呼吸を、吉山にばれないように少し緊張を和らげてから吉山の頭にそっと触れた。