大和の家の前に着く。ワンルームマンションの入り口。

簡単な暗証ボタンを押すとすぐに開かれる自動ドア。熱気のこもるエレベーターに乗り込むと、一気に汗が吹き出す気がした。


「あっつ……」

「お茶でも飲むか?」

「あーありがと」


チン、と軽い音が鳴って、エレベーターは5階で登るのをやめて扉を開けた。

突き当たりの部屋の鍵を開けて先に入る大和の後ろをついていき「お邪魔しまーす」と小さくつぶやく。

大和の家にくるのは、初めだ。意外とさっぱりした部屋の中、青いカーテンが揺れる。


「あっちーな!窓開けるぞ?」

「クーラーつければ?」


というかつけて?


「あー今壊れている」


お茶を飲んでモノを受け取ったらすぐに帰ろう……そう思う。まるで蒸し風呂。汗が止めどなく流れる。


「ほら」


薄い青緑のグラデーションのかかった透明のグラスに、丁寧に氷まで入れてくれた麦茶を机に置いてくれた。


「ありがと」


一口飲むと、少し涼しく感じる。感じるだけで暑いのには変わりないけれど。

クーラーがないだなんて信じられない。クーラーがないならないで、扇風機でもあればいいのにそんなものも見当たらない。


「……暑くないの?」


聞きたくもなる。私だったら耐えられない。


「俺、夏生まれだから暑いの大丈夫なの」

「……わたしも夏生まれだけどね」


私の言葉に大和は「っはは」と、声を出して笑う。


「お前はほんと、暑いのが嫌いなんだな、すっごい汗」


そういって、私の汗を、汗と、潮風でべとついた、大和の腕で拭われる


「……気持ち悪いよ」


今度は体を驚かせる事もなく、麦茶を飲みながらそう答える。暑さでとうとう、思考と反応が鈍くなったのかもしれないな。
にやりと笑う大和の顔が、近づいてくるのもよけずに、受け入れる。

口の中は麦茶で冷えたはずなのに、大和の生温い口が微かに涼んだ温度を奪ってぬるくぬるくしてゆく。