別に『男の一人暮らしの家に行く』ってことに危機感を抱く訳じゃないし、そこまで自意識過剰じゃない。
だけど、どうも気が重い。
「嫌なら良いけど」
「行くよ」
大和の返事に、考えている途中だった私の頭に反して、口だけが動いてそう口走った。
ここで断ると、もう貸してくれないような気がして。
ついでに、大和の口調が少し、拗ねて聞こえたから。
「じゃあこっち」
私の返事に、何も気にしないようにいつもと同じ様子で、曲がり角を私の家と反対の方へ曲がる。
まあ、いいか……何かあるとも思えないし。
並んで歩くと、隣の大和はやっぱり『見た目だけ』は男前だな……とか思った。
身長だって、私よりも頭一つ程も大きくて細いのに、でも筋肉質な体はたくましく感じる。腕も胸も首も色っぽい男――。
……なんて、馬鹿な事を熱さで朦朧とする思考のせいだろうか。
「お前って髪の毛いつもおろして帽子被ってるな」
「セットしなくていいから、楽なの」
歩いていると、急に大和が私を見てそういう。肩くらいの長さのときは跳ねやすくてくくっていたけど、長くなると、セットもくくるのもめんどくさい。
本当はショートにでもしたいけど、それはそれで朝がめんどくさい。帽子が一番らくちんなの。
「前髪、あげたらすっきりしてかわいいじゃね?」
ふわりと、帽子が浮いて、目にかかる前髪をおでこからあげる。体が一瞬、ほんの少しぴくっと動いてよけるように後ろに重心が傾く。
「ほら」
開けた視界の先には、子供のように歯を見せて微笑む大和が正面に見えた。
「焼けるじゃない」
大和が手に持つ帽子を取り上げてさっきよりも深く、帽子をかぶった。
顔が見えないように。
熱い熱い暑い暑い涼みたい。