「じゃあ今日はここまででー」
サークルの部長が、バーベキューの後片付けを終えた後、ぱん!と手を叩き注目を集めてみんなにそういった。
やっと終わった。ふうっと一息ついて、砂のついた鞄を手に取って軽くはたいて肩にかける。
「じゃあね、真理」
大学近くの海辺からは反対方向になる私と真理は少し話をして別れる。まだべとつく体は重たく感じて、のろのろとマンションに向かって歩いた。
「朝子!」
後ろから、大和の声が聞こえて、聞こえないフリをして帰ればいいのに、とは思いながらも振り向く。
大和の姿の後ろに、サークルの女の子の姿が見える。
ああ、もう勘弁して欲しい。
そもそも何で大和は何かと私に絡んでくるんだろう。
「何?」
歩む足を止める事なく、大和に素っ気なく答える。
後ろから駆け足でやってくる大和の足音が聞こえて、そのまま前を歩く私に、当然ながら駆け足の大和はすぐに追いついて、私の隣で私の速度に合わせる。
「何?」
「お前、この前俺の持っていた小説、読みたいって言ってただろ?」
……頭の中で考える。そんなことあったかな?
「ああ……」
そういえばそんな事もあったかもしれない。
本屋でなかなか手に入らない上巻、読みたいけど売っていないし、売っていたとしても高いし、諦めつつあった。
「読み終わったから貸してやろうか?」
「あ、本当?ありがとう、じゃあ今度サークルの時に……」
「今から俺んち来いよ」
私が話している途中に、大和は遮るように言う。
何で……わざわざあんたの家に行かなくちゃならないのよ。
私は帰ってシャワーが浴びたいの。
「今度、持って来てくれたら良いじゃない」
「重たいから嫌だ」
……家に……ねえ。一度帰ってさっぱりしたいけど、一度帰ったらまた暑い中、出て行くなんてしたくはないし、クーラーの効いた部屋で悠々と小説を読むのもいい。
だけど大和の家に……?