「最近はないかな……昔、高校の時だけど……飼っていた猫が死んだときは泣いた、かな」


中学の時に拾ってきた猫だ。虎縞の茶色の猫だった。何をするにも俺の後をついてきて、俺の傍で眠る。

そんな猫だったけれど、亡くなったときは俺の傍にいなかった。俺がいない昼間に、眠るように息をするのをやめた。


「泣きたくなくて、こっそりと部屋で音楽聞きながら泣いたな」

「もう……今は泣かないの?」


興味があるのか、それまでぼんやりとしていた表情の吉山が俺を真っ直ぐに見つめて問う。


「や、さすがにもう……泣かないかな」


もう二年も経つし……。っていうか。なんで俺こんなに真面目に答えてるんだよ。自分が泣いたときの話とか。
今まで誰にも言ってないのに。


「冬に亡くなったの?」


なんで冬なんだよ。
そう突っ込みそうになったけれど余りにも真剣な吉山の目に俺は何も言えなくなった。


「春だったかな……」

「じゃあ……寒くないね……」


なんだそりゃ……。
返す言葉が見つからなくて、中身の入っていないマグカップを持ったり置いたりして時を過ごした。

なんだか席を立つことも申し訳ないような気がして……。

――って。


「何でないてんだよ……!」


ふと視線を吉山に戻すと、ほろほろと瞬きもしないで涙をこぼしていて、気付いていなかったのか俺の声に初めてはっとした表情をして涙を拭った。