「私が、男だったら、良かったのに」
明里は涙を流しながら呟いた。
そんなこと想ってない癖に。そんな綺麗な顔で。そんな綺麗な涙で。
その言葉が、私達の関係を終わらせて行く。
がらがらと音を出して崩れていくのが分かる。
そうしたのはきっと私だ。無理矢理創り上げ続けた物は、どこもかしこ歪で、つぎはぎだらけで。それを必死で支えていたけれど、きっと間違って仕舞ったんだろう。きっともっともっと大事な所を守るべきだったのに。
「私は、明里が女でいてくれてよかった」
大きな胸も綺麗な顔も、ふわふわの髪も。全てが大好きだったよ。
そんなあかりが大好きだった。
だから何度でも言う。
男でも女でも明里が好きだなんて私には言えない。自分と同じように膨らむ乳房が、私と共にあることを何度も告げるんだ。
自分にある小さなふくらみを愛おしく思うように明里にだって思ってる。その乳房に、私は何度もキスをしよう。何度だって言ってあげる。
「私が男だったらよかった?」
そう言って、私は目の前の薄くなった焼酎をくいっと飲み干した。
薄くなってもうアルコールの味なんかしやしない。
「……わからない……」
明里は、少し考えて、そして呟いた。
「どっちでも彬。だけど……女の彬じゃなかったら、ここまで彬のことを知ることは――出来なかったよね」
明里の言葉に、私は目をそらした。
私のしたことは、言ったことはきっと――残酷だ。
だけどそれでいいよ。明里は女で、そんな自分を嫌いなわけじゃないのを知っているから。
女なのに女である私を好きになったことでそんな風に思わないで。私は今の、そのままの明里が大好きだったんだよ。
幸せになってとも、いい人が現れるよなんてことも、私にはそんなこと言えないけれど。
それでもいいからそばにいてなんて言えない。
そんなのダメだから無理だなんて言えない。
この先の明里を私は見続けることは出来ないかも知れないけれど。
だけど思ってる。だけど想ってる。
一年たてばなくなったはずの雪も花もまた現れることを知っているから。
だから
――乳房にキスを。
End