「――明里……」


なんといえばいいのだろう。
泣いている明里を前に、自分が泣くのは卑怯かも知れないとぐっと涙を堪えて震える声で名前を呼んだ。


「ごめんね、我慢できなくて」


私の言葉に、明里が笑う。
笑うことなんて何一つないのに。
明里が謝ることなんて何一つないのに。

目の前のお酒に浸る氷が、カランと小さな音を立てて焼酎の中にとぷんと埋まった。

さっきよりか氷が溶けたからか、量が増えたような気がする。


人は人で、性別なんて関係ないのだと思えたらどんなに楽だろう。
だけど私は男が好きで、そこに理由なんて見つけられなくて、それは私が女なんだと何かに言われている気がする。

同性を好きになることを悪いなんてこれっぽっちも思えないのに、だけど私はそこには行く事が出来ない。性別を超えてまで私を愛してくれた明里にありがとうと言って良いのかさえ分からない。
どうして。
なんで。

胸がちくちく痛む。
胸が張っているのは、生理前だからだろう。それは私が女だからだ。


「私、保仁と、幸せになるから」


だから明里もなんて言えないけれど。
だけど誰よりも幸せになるから。


女である自分で良かったと、保仁といることで私は思うんだ。
それは明里といるときでさえ思ってた。

女であるから私は明里とこれまで一緒にいることが出来たと思うんだ。
終わることのない友情を育めると思っていたから。

終わることなく一緒にいるのだと、気付いているのに気付かないふりをして、明里を何度も苦しめたかも知れないけれど。

同時に明里が女で良かったのだと思ってる。


それでもいいからなんて言えない。
そんなのダメだなんて言えない。

女の明里が大好きだから。
終わらない関係を築いていきたかったんだ。
だけどそれはきっと。

自ら壊し続けた関係でもあったのかもしれない。

何度も何度も私は誤魔化して共にいた。それがなければもしかしたら、私達はもう少し距離を持ち、終わらないまま続いていけたかもしれない。


男女であれば、抱き寄せて涙を拭ってあげることも出来たかも知れない。
だけど女同士だから一緒に泣くことしかできない。
だけどそれは共に泣くことが出来ると言うことだ。


性別で超えられない壁がある。
少なくとも私には。


男であるから彼氏を愛してる。
だけど女だから明里が愛おしい。

セックスは出来ないけれど、だけど女だから明里を大切に思える。

自分が女で良かったと、私は二人に思わせて貰ってるんだ。