「なんか、食べ物ある?」
ふいに、声をかけられて顔を上げると、彼が私をみて優しく微笑んでいた。
うん……やっぱり笑った方がいいな。窓の景色が、青い空をバックに微笑む彼は、よく似合う。
思わず見とれてしまいそうになって、そしてちょっと熱を感じる顔を隠すように鞄を探った。鞄の中にしまい込んでいたチョコレートが手にこつんと当たって取り出す。
「ちょっと、溶けてるかも」
っていうかいつから入れっぱなしだったっけ?
「いいよ、ありがとう」
手を伸ばすと、男の子は鞄を席に置いたまま腰を上げて私のすぐ近くにやってくる。思ったよりも…背が大きいな。
男の子は、溶けかけたチョコレートを口に入れて、また席に戻って窓を眺めた。
静かな車内に響く胸の音。
「いいとこだよね」
「あ、うん」
不思議と、胸が苦しい。
『何があったの?』と、聞きたいけど、私が逆の立場なら聞かれたくない。
そんなことを聞きたい訳じゃない。それ以外にじゃあ何を話したらいいだろう。
何か、もっと話をしたいと思う。けど、どうしていいかわからない。言葉が何も出てこない。
時間だけが流れる。ゆったり感じるはずの田舎を走っているのに時間が早く経つみたいに感じる。
黙ったまま何も出来ないまま、心地良いような落ち着かないそんな車内でただ流れる景色を追った。
まだ、着かないでと願ってしまう。
二人旅、してるみたいだ。
ついさっき、初めて会っただけなのに。二人で一緒に出かけたみたい。
一緒の電車に一緒に乗って、目的地に連れて行ってくれる、それだけなのに。
もう少しで到着駅。
二人旅も、もうおしまい……最初で最後の二人旅。
まだ、着かないで。
終わりたくない二人旅。
終わらなければいいのに。
見知らぬあなた。
終わってしまったら。
おしまい。