吉山は、俺が見る限り普通の女だった。
まあ、かわいいという意味では普通じゃないのかもしれないけれど。特に話したこともないのは、特に話す理由もないだけで
もちろん話したことが全くないわけでもないけれど。だけどこれといった記憶はない。その程度の関係だ。
俺は俺で同じ学科の友達がいるし。吉山はいつも同じ女の子達と一緒にいた。
学科が一緒なだけだから、毎回授業で会うわけでもないし。そう思えば、こいつが俺の名前を知らないことも仕方ない。
「寒いね」
立ち上がった吉山は悲しそうに苦しそうに、そう呟いた。多分……俺に言った言葉じゃない。誰かに投げかけた言葉であることは何となく感じたけれどそれが誰なのかはわからない。
独り言のようなのに、だけどそうは感じられなかった。
「くっしゅん!」
そらみろ。
どれほどの時間をここで過ごしたのか。体の芯まで冷えたんだろう。そんなことしてたらそりゃそうなるだろう。
自分体を抱きしめるようにして腕を擦る吉山に、俺は冷めた視線を向ける。
「寒い」
しらねえよ。
俺の隣で今度は明らかに俺に話しかける様に俺を見ながら言う。
「……私お金無いんだけど……お金ある?」
「……あるけど……なにすんだよ」
そんなに多くは持ってねえぞ。大学生の一人暮らしの俺にたかるつもりかお前。そう言って少し怪しみながら見る俺に吉山は何も言わずに俺の先を指指した。
「ココア飲みたい」
……そんなお金も持ってねえのかよ。
本日3回目のため息をついて俺はポケットの財布を取り出した。ため息で地面を埋め尽くす落ち葉まで飛んでいきそうだ。
給料日前だっていうのに……。こんな無駄遣いするような余裕はねえよ。
「あとお腹空いた」
「お前図々しいな」
驚きだ。何なんだこいつ。