お酒の中を泳ぎ回れば、方向感覚を失って、少し自由を感じられるかも知れないと。
だけど結局寝て起きて気がつくと後悔しか残ってないし、水色はまぶしすぎる。
記憶は一分も一秒も失ってない状態で、ふらふらになりながらなんだかんだと自分の仕事を感じながら仕事に向かう。
――小百合はしっかりしてるから。
しっかりなんかしてない。
自分の思うままに行動しているだけ。好き勝手してるだけ。
「あの、ほんとに大丈夫ですか?」
さっきの声と同じ声に夢に飛んでいきそうな私の思考を引き留められて目をぱかっと開けた。声と同じでさっきと同じ男の人が心配そうに私を覗き込む。
「……すいません……もうすぐつくんで……大丈夫です」
へらっと笑うことしかできない自分になんだか何とも言えないバカさを自分で感じた。
「――ふ…」
自分で自分にバカだと思ったのと同時だっただろうか。ソレまで心配そうな表情で私を見つめていた男性が、口に手を当てて思わず吹き出し慌てて隠す。
そんな初対面の人に笑われるほどにひどい顔をしていただろうか……。
「あ、すいません……でも、あなたなら大丈夫ですね」
申し訳なさそうに笑いながら男性が口にして私に向かって安心そうな表情を向けた。
――大丈夫、ね……。
彼の言葉にさえ、ちくりと痛む胸に自分で嫌になってしまう。
大丈夫なんかじゃないと、言えるほどに私は他人に甘えるのは苦手だしなによりも自分が嫌だと思っているのに、大丈夫だねと言われるとそんなことないと言いたくなってしまう我が儘な感情。
お酒が入っていなければ「ええ、そうです」と気丈に振る舞えただろうか。
「安心して、僕はここで降りれますね」
そう言って、ゆっくりと電車が止まって私の目の前の扉が空気が抜けるような音を出しながら大きく開いた。
「でも、今日は何もしないでゆっくり寝て下さいね。疲れているときは、甘やかしてあげてみてください」