生暖かい水の臭いが充満するプールサイド。

ベンチに座って泳ぐ深山を眺めた。
何て気持ちよさそうに泳ぐんだろう。
地上でもこんなに自由に泳げるのか。
そう思うほどにキレイで、楽しそうで、羨ましく思う。


「本木も泳げば?」


その声は無視して、ゆらゆら揺れるプールの水面を眺めた。
水面が太陽の光でキラキラに光り輝き、まぶしいのにそのまま眺めた。

深山がそのまま仰向けに浮かんで揺れる。


ゆらゆら
ゆらゆら


きっと深山には悩みなんてないんだろう。
羨ましい。そして憎たらしい。

私だけがこの場所に不釣り合いな気さえする。
息苦しい。息苦しい。狭い苦しい。羽ばたきたい。

だけど、どうしたいいのか分からない。


「あー空の中を泳いでるみたいだ。お前も泳げたらいいのになー」


そのつぶやきが私を捉えて、まるで催眠術にかかったように私を立ち上がらせた。


「本木?」


その声と同時に、水面に映る空の中に——飛び込んだ。


「本木!?」

「げほっげっほっ!」

「およげねーのかよ!制服のまま何やってるんだよ」


焦った深山が私の傍まで泳いできて私を抱える。
ゆらゆら映った空が揺れて、その中に私がいる。


「ふっ」

「……何笑ってるんだよ」


空の中にいる私。
空の中、限られた空間だけだけど自由に泳げるこの空の中。

地面から浮いた水の中。

見上げると空が見える。


「だからあんたは自由だったんだね」

「は?」


水を両手ですくうと小さな空が手のひらに入った。


欲しかった空。空になりたかった、変わらず、誰にも届くことのないものを手に入れたかった。

とぷん、と水の中に頭まで潜って水色の世界のなかを、ゆらゆら自由に、身を任せて泳ぐ。


空の中を、空にとけ込むように、水色の中を。