顔の隣にあるノートにちらりと目をやるものの、体を動かすことができないまま、ただ大きなため息をついた。
「……っあ……」
大きな風が隣を通り抜けた、というほどの風にノートがバサバサっとページをめくり上げて、そばにあったプリントが宙に舞う。
「……あー……あー……」
あきらめに近い声が出る。
一瞬舞い上がった髪の毛を整えながら体を起こすと、飛んだプリントがひらひらと落ちて行くのが見えた。
さすがにもう手が届かない。
宿題のプリント。
友達も居ない私には、コピーを頼めるような相手も居ない。
呆然とゆらゆら落ちて行くプリントを眺めながら小さな溜息が漏れて、そのままプリントは屋上よりも下に落ちて、視界から消えた。
ただ眺めているだけの私と、ただそこにある空だけが残された。
「あんたはいつもそこにあるだけね」
空をあおいで皮肉まじりにそう声をかけた。
もちろん返事があるはずもなく、聞こえるのは運動場の生徒の声だけ。
「あーあ」
一度あげた体を再び倒して、同じように大の字になった。
どうしようかな……。取りに行くのも面倒だし、もうどうでもよくなってきた。
新学期にクラスメイトが落胆の声を上げるのも想像出来る。ため息と同時に、役立たず、とでも言いたげな視線を向けてくるだろう。
もう二週間足らずで学校が始まる、その憂鬱さには似合わない青空が広がって、私の視界にはそれ以外何もない。
別にいじめられているわけじゃない。
だけど仲がいいだなんてことはあり得ない。
利用されていることはわかっているけれど、利用されることでしか人とつながれない。
真っ青な空の中を、一羽の鳥が泳ぐように通り過ぎる。
「憎たらしい」
学校もなにもない世界の中で好きなように飛び回れる、空に近い存在。
空にとけ込めるのが憎らしい。