とはいえ、和也のこの怒りっぽい性格はどうにかしてほしい。
背中だけで不機嫌なことがひしひしと伝わってくる。
原因がわかっているなら対処のしようもあるけれど、今日は全くわからない。
会話なく和也の後について行くと、駅前のホテルの前にたどり着く。
入ったことがないけれど、外資系のホテルで名だたるブランドが店舗を構えているらしく、テレビで見てすごいなあと別世界のことのように思った記憶がある。
そのホテルのエントランスに近づいていく和也に思わず「ちょ、どうしたの」と声をかけた。
「ここの45階、だったっけな」
「なにが」
「食べたことのない、おいしい居酒屋」
……なにを、言っているのか。
意味がわからないまま堂々と中に入る和也の後ろをついていく。
和也の格好はともかく、私の今日の格好では明らかに浮いているような気がするんだけど。
おどおどと周りの様子をうかがいながらエレベーターに乗り込む。
ボーイさんとかに“あなたの格好ではふさわしくないです”とかいって追い出されたらどうしよう。
「ねえ、いいの?」
「なにが」
「なにがって、ここにいることよ」
服の裾を軽く引っ張り和也に問いかけると、面倒くさそうな、あきれたような深いため息を吐き出される。
チン、とエレベーターが目的階についたことを私たちに知らせてドアを開ける。
何階だったか見忘れたけれど、相当上の階だろうことは何となくわかった。
なんの用事があるのか。
……もしかして。
そんな奇跡みたいなことを想像し、心拍数が跳ね上がる。
いや、まさか。いや、でも。
「いらっしゃいませ」
「予約してた榊ですけど」
「お待ちしておりました、ご案内いたします」
中年の男性が私たちに席を案内する。
どう見たってここは、ホテルのレストランだ。きょろきょろとあたりを見渡すと、裕福そうないくつかの男女。クリスマスを満喫しているのだろう。
多分、その仲間入りを果たすのだ。
窓際の夜景の見える席に連れてこられて、イスを引いたボーイが私を見る。おずおずと移動すると「失礼いたします」とイスを押してくれた。
そのまま立ち去る彼の背中を見送ってから、小さな声で和也に「どういうことよ」と問いかける。
「なにが」
「だから、ここが。なにも聞いてないって」
「言ってないから当然だろ」
うわー。なんでこんなに不機嫌なの。
「ったく、せっかく予約してやったのに、いつもの格好だし。ちょっとはおしゃれして来いよ」
……は?
ぶっきらぼうで自分勝手な言葉に思わず眉をひそめる。
「聞いてないんだからわかるわけないでしょ? 居酒屋行くのになんでおしゃれしなきゃいけないのよ。聞いてたら私だってそれなりの格好したわよ」
「居酒屋でもクリスマスだろ。そもそも鈍感なんだよお前。俺が1ヶ月以上も前にクリスマス空けておくように言った時点で多少は気づくだろ」
「和也にこんなしゃれたことできると思いも寄らなかったもので」
お互い小声でギスギスした空気を醸し出す。
なんで私が責められなくちゃいけないのか。クリスマスだっていうのに、あからさまに不機嫌になって仏頂面をする方もどうかと思うんですけど。