十年前、私を祖父母に預けて両親は船で釣りにでかけた。そして、そのまま帰ってこなかった。その日は雨だったらしい。

 お葬式の記憶はない。ただ、そこで出会った航のことは覚えている。当時の航は私よりも背が小さく可愛らしかった。

『一緒に遊ぼう。ボクはずっと一緒に遊ぶから。約束するよ』

 そう言って小指を差し出してくれた。



 あの日から十年、航はずっと一緒に遊んでくれた。同じ学校で授業を受けて、同じ道を一緒に歩き、ここで私が過ごした十年を一緒に過ごしてくれた。

「大阪か、もしくはどこか。いつか、ここを出て行くんだろうね、私たちは」
「……そう、だろうな」
「それまではここでのんびり過ごしたいし、出て行くときも、航は一緒じゃないとダメだよね。だって“ずっと”て言ってくれたもんね。だから、迎えに来るならあと十年くらいは先にしてほしいなあ」

 今来たら、航、嘘つきになっちゃうもんね。そう言って笑うと、航はやっと意味を理解したのか、驚いた顔をしてから笑った。


 十年間、迎えに来るならまだ来ないでと思いながら海を見続けた。

 ここの味噌の作り方をまだ教わってないし、魚の捌き方もわからない。マキちゃんスーパーしかないこの田舎で、もっと料理を極めたいし、高校生になって海の家でバイトもしたいし、おばあちゃんとおじいちゃんを私が車でショッピングモールまで連れて行ってあげたい。

 もちろん、全て航と一緒に。まだ、ここで航としたいことがたくさんあるんだ。まだまだ航と遊ばなくちゃいけない。


 この十年、海は穏やかに私と航を見守ってくれた。だから、もう暫く変わらないままでいい。

 波は勝手にやって来る。待っていればいつの間にか時は過ぎて、知らない間に色々変わっていく。十年で私の身長が伸びて、それ以上に航の身長が伸びたように。


 いつか、自分でこの海から離れなければいけないときがくるから。


 その時は、航も一緒に。その頃には、航も雪駄と運動靴以外の靴を履くようになっているだろう。