海から真っすぐ歩いて行くと、国道がある。ここをまっすぐまっすぐ進むと尾鷲市の中心部に着く。私と航が来年から通う高校や、大きなショッピングセンターもある。祖父母はもう七十歳を超えているので、航の家族に車で何度か連れて行ってもらった。

「静かだね」
「シーズン過ぎたしな」

 そういうことじゃないんだけれど、たしかにな、と思った。

 なんにもない田舎なだけあって海がとても綺麗なので、夏になるといろんな人がやってくる。

 近くの空き地は駐車場になり、近所のおじいちゃんがガードマンみたいなことをする。花火が毎晩鳴り響き、少し離れた空き地にはテントで寝泊まりする人もいる。この海しか見たことのない私にはよくわからないけれど、それだけ綺麗らしい。

 ……たくさんの屍が眠る、この海が。

「あのまま……大阪にいたら私どうなってたかなあ」

 ふと呟く。

 ここには、生まれてから毎年二回、夏と冬に来ていた。そして、暮らすようになったのは四歳の夏からだ。それまで住んでいたという大阪の記憶は全く無い。

「なに、大阪に帰りたいの?」
「まさか。ただ、もしかするといつか迎えに来るかもって思って」
「……千歳、だから毎日暇さえあれば海を見てたのか?」


 この十年、毎日と言っていいほど海を眺めてきた。波の高い日も、低い日も。時には台風の日だって。水平線はいつだって変わらずそこにあり続けた。


「お父さんもお母さんも、見つからなかったから。だから、もしかしてってほんのちょっと、思ってる」