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「あれ? 水華、なに作ってるの?」

 隣でクリームチーズを混ぜる愛美が、あたしの手元を見つめて問いかけた。

「胡桃のチョコロッシェ」
「なにそれ、美味しそう!」

 目を輝かす愛美にくすっと笑みを向けて作業を続ける。

「……どうしたの? 急に違う物作って。いつも一緒の作るのに」
「ちょっとね」

 愛美には、まだ悔しいから教えてあげない。

「えーなにそれー! 気になるー!!」
「秘密−」

 今年は、ちゃんと渡す人が渡せる人が出来たから。
 チーズが苦手な人だから、その人の為にレシピを変えて、ちゃんと渡したい人に渡したい人の為のチョコレートを。

 行き場のない想いで、吐き出すように零すように込めた渡せるはずもないチョコレートは、もう作らない。

 作りたい想いも、まだまだ吐き出したい想いは残っているけれど。作ってしまえばきっとまた、それらは川の流れに乗ってあたしの思いのように漂流してしまうから。

 少しでも、消化できるように。
 ちゃんと食べてちゃんと食べて貰って消化して消えゆくように。




 当日、あの橋の上にいればまた会えるだろうか。
 またあの橋から、今度は捨てるためじゃなく、流すためじゃなく、彼に送るために流してみようか。

 それでも現れなかったら。会えなかったら。今度は自分で歩きだそう。
 見つけ出して、君のために作ったチョコレートを、君に。

 そして次こそ、ミルクチョコの彼に、名前を聞こう。


End