……ごめんね。
最近ちょっと他の人が気になってて、乗り換えようかな、とか思っちゃってごめんね。なんだかんだあんたのことが一番好きだから。一緒にいて一番ラクだし、こんなにも私をわかってくれる人もいない。
やっぱりあんたが好きだよ林。
私が素直にこくりと頷いたのを確認してから、彼はまた苦笑を零して私のサポートに回ってくれた。
ごめんね、私も疲れてるけど、林だって疲れてるよね。もうずっと働きっぱなしだもんね。
社会人になった私と、いろんなことをしてくれたっけ。
仕事のことを教えてくれたのはいつも林だった。
もう帰りたかったんだろう。終わりたかったんだろう。
だけど林はいつもの様に一生懸命私のそばで受け入れる準備を始めてくれる。一旦気持ちを切ってしまったからか、少し動きが遅い。けれど祈るような気持ちで彼を見つめていると、やっといつものようににこりと微笑んで「やろっか」と言ってくれた。
ほっと胸をなでおろし、なんとか首の皮一枚繋がった状態に持ち直した。
焦って刺々しく乱暴になった私なのに、林はこうして手を差し伸べてくれるのだ。
……いや、もともとはこいつのせいなんだけど。
元はといえばお前が仕事していれば、私は今現在、頭を抱えるようなことにはなってなかった。
おかしいだろ。何騙されてんだ私。こいつの見かけになに干されてんだバカか。
……いや、まあ、仕事をしよう。怒ってる時間ももったいない。
時間を確認すれば、最終電車まであと四十分。もう少しでこの企画書が出来上がる。怒っている暇もない。
ふーっと溜息ではなく深呼吸をして、背筋をピンっと伸ばす。
よし、やろう。やるしかない。頑張れ私。
「林ももうちょっとがんばってね」
「はいはい」
はいはい、じゃねえよこのクソインテリ。
一目惚れしたのも私だし、一時期溺愛していたのも私だったからっていつまでも甘えてんじゃねえ。
「ねえ、これ早く移動させて」
「え? あ、あー……ちょっとまって。これすっごい重いんだけど」
「重いけど、今まで軽々運んでくれたじゃない」
「そんなこと言われてもなあ」
年のせいなのだろうか。最近は本当に夜になると動きが鈍い。
イライラしながら彼が動くのを待つしかないのがまたイライラする。
ち、ち、と舌打ちを鳴らすと、林は一瞬だけやる気を見せた。
けれどすぐにごまかすように私に虹色に輝く眩しい笑顔を向ける。
お前マジで仕事しろや。