――ふっざけんなこのやろう。

 最後のセリフに私の中のなにかがぷつりと音を出して切れた気がした。

 涙を流しながら、懺悔のようなセリフを吐き出しているけれど、実際は自分の身がかわいいだけだろうが。そんな言葉は聞きたくない。〝妻〟になった女が、それを私にどの面下げて言ってんだ。

 勢い良く立ち上がり、彼女の体を勢いよく突き飛ばした。バランスを崩して尻餅をついた彼女の足からピンヒールがひとつ、こぼれ落ちる。


 それを拾い上げて大きく振りかぶり、躊躇なく彼女のお腹に突き刺す。ぐっさりと気持ちのいいほどそれは体に沈んで、それをずるりと抜き取れば、中身がぼとぼとこぼれ始めた。

 そういえば……彼の子供がいたんだっけ。このどろどろの中に、彼の残ったカケラがあるらしい。彼女だけに残した彼の一部。それに加えて、彼の存在も。

 だらしなく流れ続ける彼女の体内。床一面が赤く染まり、中身がなくなった彼女は腹部に大きな穴を残してぼとりと堕ちる。



 その穴をのぞき込むと、なにも見えなかった。ただの空洞。彼の残したなにかは全て、ピンヒールの穴からこぼれ落ちて、もうなにも残っていない。

 それでも、この抜け殻には肩書は残る。彼女の名前はすでに旧姓ではなく彼の姓になっているのだ。


 つまりはそういうことなのだ。


 彼女がどんな中身であろうとも、彼女が彼と付き合っていた事実はなくならない。本当の本当の本当は、私のことを愛してくれていたとしても。中身は誰にも見えはしないし、外見が変わるわけでもない。ついでに言えば、そんな真実は本人にしかわからないし、私にとっても真実はひとつだけだ。あの日、最後に彼が告げた言葉が全て。

 足元に広がる赤黒い彼と彼女の残骸を踏みつけながら突っ立っていると、じわじわとそれは私を飲み込んでくる。

 口元まで私を包み込んで、息苦しさを感じながら私はくすりと笑った。


 ――なんて、ね。