確かに私が食糧の話題を出ししたとき、今までなかった段ボールは現れた。

日下さんの過呼吸のときだって、ビニール袋を見つけることが出来た。



だけど、これは。

どうしてこんなものまで具現化されてしまうのだろう。





「乾」

しっとりとした膜に手を触れたままでいると、不意に霧崎君に名前を呼ばれた。

手を離し、振り返れば霧崎君が座ったまま静かに呼吸をしている。


ただ私の顔が余程強張っていたのだろうか。

一瞬眉を上げてから、微かに笑ってくれた。



「禍福(かふく)はあざなう縄のごとし、って言葉知ってるか」


椅子に座ったままの霧崎君が、落ち着いた声で言う。

でも聞いたことのなかった私は首を横に振った。