寝起きはとてもわるく、まだ夢を見ているようなぼんやりした頭で朝昼兼用のお好み焼きを食べた。

母の作るお好み焼きは懐かしい味がする。入っているものはマンションでわたしが作るものとほとんど一緒なのに、キャベツの切り方と素のゆるさの違いだろう。

 カーゴパンツにスニーカー、いつものコートの下には黒いニットを着て自転車にまたがった。

数年後には錆びて捨てられたわたしの愛車だ。

ダークブラウンの普通のママチャリ。マウンテンバイクが欲しかったけれど、母がなぜか許してくれなかった。

 セイちゃんの家までは五分ほどで着くけれど、風が強いのでのんびり行こうと思う。それに、頭のなかも、少し整理したい。

 青く澄んだ空に、ぽっかりと迷子になったような小さな雲がひとつだけ浮かんでいた

。風にのってふわふわと動いてくそれを追いかけるようにペダルを踏み込む。行き先はわたしと一緒でセイちゃんの家の方角だった。

 住宅街をするすると通りすぎると田んぼが増えていく。ぽつりぽつりと新築らしいきれいで大きな家があり、子供たちが道端でボールを蹴り合っていた。

近くの道路には古民家を改装したようなカフェがあったはずだけれど、まだ今はないらしい。


 大阪に住んでいると奈良はどこも田舎で、車がないとどこにも行けない不便な場所だ、と思っていたけれどこうして見渡してみると、独特の落ち着いた雰囲気と静かでゆったりとした空気を感じる。

 高校に入ってから、こうして家の周りを気ままに自転車で走るということはなくなった。

大阪の高校に通ったために、奈良を出ることが多くなった、というのも理由のひとつではあるけれど、大きな原因はセイちゃんとの関係だろう。

たまたまセイちゃんと顔を合わしてしまうのが怖かった。自分のしたことで、どれだけセイちゃんを傷つけたか、わたしは事の後に気づかされた。

 どれだけ謝っても、謝りきれない。

 あんなに大好きなセイちゃんに合わす顔がなかった。同時に、冷たい視線を向けられるのも、無視されるのも、怖かった。

 もしもあんなことにならなければ、わたしが間違った選択をしなければ、ずっと彼女と友だちでいられただろう。一緒にならや大阪に遊びに行き、中学時代とは違った時間を過ごせたんじゃないかと考えるんだ。

 このまま、なにも言わずに卒業式まで迎えれば、もしかしたらそんな日々が待っているのかもしれない。

けれどそれは、セイちゃんに今までわたしが囚われていた後悔をさせてしまうんじゃないだろうか。