「おい、足許、なんか落ちてる」

 床をくいっと顎で指してから寝室に戻っていった。恐らくバイトの時間なのだろう。

 なにが落ちているんだろうかと視線を落とすとはがきサイズの紙が一枚落ちている。裏向きになっていたそれを拾い上げると、淋しげな笑顔をしたふたりが写っていた。

そこにはカラフルなペンで書き込みがされている。


  セイ&ちな 
  会えるのを楽しみにしてるね! 絶対来てね! 聖子
  P.S. 文句いっぱいあるんだからー(笑) 
 

 幼い、わたしとセイちゃんの、写真。卒業式の日に撮ったふたり。

 こんなの、開けた時には入っていなかった。どうして、いつから、この写真が中に入っていたのだろう。それよりも、どうしてこの写真が存在するのだろう。

 手が、小刻みに震えて力が入らない。
 涙が溢れて、ぽつりと写真に一粒落ちた。

 汚してしまわないようにそっと胸元で抱きしめて、どうしようもないほどあふれる涙を拭いもせずに、泣いた。


 あの、夢の七日間は、本当にあったのかもしれない。少なくとも、この写真の中にはある。過去にとらわれて、必死でなにかを変えようとしたあの七日間。

 幼いわたしの選んだ道は、間違ってなかったよね。

 そして、後悔にとらわれてなんとかしようと、がむしゃらになったあの七日間も。

 
 後悔ばかりの五年前。だけど、やり直すのは五年前ではなく、これから。

 同じような後悔を、この先にだって何度もするだろう。だって未来はわからないんだから。

 だから、これからを変える努力をすればいい。過去を宝物にして踏み出していくしかない。これから先の日々で取り返していくしかない。

そうしたら、明日は少し、なにかが変わるかもしれない。


 今、この手にある写真のように。