やっぱり、聞かないほうがよかったのかな、と思い始めると、突然電話越しにからからとした笑い声が響く。
『なに、びっくりしたー。一瞬誰のことかと思ったよ。関谷ね、思い出した。あははははは、もう過去の話だよどーでもいいって』
本当に忘れていたらしいことに、言葉を失ってしまったけれど、次第に面白くなってきてつい、わたしも笑ってしまった。
「ごめん、変なこと聞いて」
『や、いいよーそんなの。まあ、大変だったし辛くてずっとちなに愚痴ってたからね、気にしてたんだね、ありがとう。でも、今はもう大丈夫』
電話越しに見せているだろう紗耶香のほほ笑みを想像すると、一五歳のときの顔を真赤にして嬉しそうに口を開けている、あの日の姿が重なった。
関谷くんと付き合えることになったんだ、とわたしに言った時の、あの紗耶香。
『関谷と付き合って別れてから、男を見るポイントも変わったしね。いい勉強になったよ。付き合ってる時の全部が、悪いことばかりじゃなかったし』
今思い返せば、だけどね。そう言葉を付け足してまた声を上げて笑った。
そんなふうに、思ってたんだね、紗耶香は。
一五歳の紗耶香は、あの日、心を決めて関谷くんに告白した。あのときに踏み出した自分を、紗耶香はちゃんと認めていたんだ。
今のわたしよりも五つも年下の、あのときに、全てを受け入れていたのかもしれない。
すごいな。みんな、すごいね。
わたしは一度大人になってまた五年前を夢で過ごしてみたけれど、ずっと迷ってばかりだった。
わたしもそんな風に、これからは成長していきたい。
今までじゃなくて、これからを、見据えていきたい。