その夜、夢を見た。
日向の姿を一目見た瞬間…あたしはこれが夢なのだと気付いた。
日向の足には何も巻かれてなくて
自由で自然で
…軽やかに、あたしの目の前のグラウンドを走っていた。
「…っ」
夢だと分かっていても。
ううん、分かっているからこそ。
…呼び止めたら、優しい君はきっと立ち止まってしまうから。
だから呼び止められなかった。
もう少しだけ、日向が走っているのを見ていたかった。
「…柚」
「っ!」
「…また泣いてんのかよ」
夢の中の日向は
記憶を持っていた。
夢の中の日向は
透明な、風だった。